―― Vol.19 徳寿ファームレストランKANTO ――
北海道白老町。道内でも比較的温暖な胆振地方に位置し、札幌や新千歳空港からも車で1時間程度でアクセスできる。近年ではアイヌ文化の復興と発信を目的としたナショナルセンター〈ウポポイ(民族共生象徴空間)〉でも知られ観光客も増加傾向だ。
さて2024年12月初旬、山間部には時おり積雪が見られ本格的な冬の訪れが迫る中、同町の〈徳寿ファームレストランKANTO〉を訪ねた。白老町の四季彩通りを登別方面に走らせると鮮やかな青いサインが現れる。
〈徳寿ファーム〉の名の通り、ここは農業適格法人の認可を取得したれっきとした牧場/農場であり、敷地内には大型レストラン〈レストランKANTO〉の他に和牛(白老牛)を飼育する牛舎やイチゴを栽培している大きなビニールハウスが並んでいる。まさに牧場だ。
ざっと見ただけでも広大な敷地に大きなレストラン、牛舎、ビニールハウスと様々な施設が並んでおり、さらにはまだ試験段階ではあるもののラズベリーやハスカップの畑もあると言う。そしてこの〈徳寿ファームレストランKANTO〉を運営しているのが〈梨湖フーズ〉。札幌市を中心に焼肉チェーン〈徳寿〉を展開している企業で、焼肉〈徳寿〉は札幌では知らぬ人はいない人気の焼肉店だ。
その人気の焼肉店を展開する〈梨湖フーズ〉がなぜこの広大な〈徳寿ファームレストランKANTO〉を設立するに至ったのか。早速、代表の高木勉社長にお話しを伺った。
構想のきっかけは「和牛に惚れ込んだ」。
「構想のきっかけは和牛に惚れ込んだこと。それが一番」
梨湖フーズの高木勉社長は笑いながらそう語る。
「以前はうちも輸入牛を使って店を運営していたんだけど、BSEになったときに輸入牛が入ってこなくなったため和牛に切り替えた。そのときに問屋さんとお付き合いをするようになって、枝市場(=食肉市場。市場で競りにかけられる食肉を枝肉と言うことから)にも行くようになった。それで枝市場に行くんだったら今度は"和牛ってどうやって育ててるんだろう?"と興味が湧いてきたんで生産者の方を紹介してもらって色々なことを聞かせてもらった」
「そうしているうちにすっかり和牛に惚れ込んでしまって、段々と"いつか自分で作りたい"、"この世界に誇る和牛という牛を自分たちの手で育てたい"と思うようになった。それが一番のきっかけ」

【高木社長が惚れ込んだ白老牛の美味さ】
こちらはこの日〈レストランKANTO〉でいただいた「白老徳寿和牛のステーキ」。白老牛は「赤身の旨味が際立つ肉質と赤身とサシのバランスの良さ」で知られているが、その謳い文句に違わず、赤身で肉自体の旨味が味わえ、かつ豊かなサシの甘みが絶品だ。そして特筆すべきは肉質の柔らかさ。200gぐらいならあっという間に食べられてしまう。高木社長が惚れ込んだというのも納得の美味しさ。
農業参画へ向けて。
しかし、これまで飲食店をやっていた企業が牧場を始めるというのだ。
「非常にハードルは高かったね。最初に農業の法人格を取ろうと思って白老の役場に行ったんだけど、何しろ前例が無いというので頓挫してしまった。そこで、私は実は一番最初の就職がここ白老での社会人野球だったんで(高木社長は大昭和製紙(現日本製紙)の白老工場で創部された北海道硬式野球部に所属していた)、そのときのつてを頼って町長に繋げていただけて、やっと話が進み始めた。町の有力者の方にも色々と協力していただいて、それからは北海道庁ともやり取りを経て書類を揃えて、やっと法人格が取得できた」
「白老に縁があったおかげ」と高木社長。
和牛の飼育に試行錯誤。
晴れて農業生産法人を取得し、〈徳寿ファーム〉の設立に舵を切った高木社長。念願の和牛の育成に向けて、北海道江別市の酪農学園大学と包括連携協定を結ぶなど準備も入念に行う。しかし初めて挑戦する和牛の育成はやはり簡単ではなかったらしい。
「最初の頃はやっぱり失敗続きでね。配合飼料と粗飼料の配分がうまくいかずに病気になってしまった。あとは牛同士が喧嘩をしてしまって、1頭だけ仲間外れにされてしまったり。そうすると餌とかも邪魔されてどんどん奥においやられてしまうから違う牛たちとグループを組ませたりして対応していた」
「とにかく牛をしっかり見ていることが大事。なにか問題が起きればその都度対応する。それはもう経験。あとは実際に牛の肥育をしている牧場の場長さんからアドバイスをもらったり、専門的な話であれば提携している大学の先生に相談したりね」
現在では計300頭の白老牛が元気に育っており、〈梨湖フーズ〉の各店舗で提供されている。高木社長の想いが実現したのだ。
焼肉×スイーツのきっかけ
冒頭で紹介したようにここ〈徳寿ファーム〉では和牛の肥育だけでなくビニールハウスでイチゴの栽培も行っている。焼肉店を展開する〈梨湖フーズ〉が和牛を育成するならともかく、なぜイチゴの栽培も行うのか。実は同社の焼肉店〈徳寿〉は、スイーツメニューが充実していることでも有名なのだ。
〈徳寿〉がスイーツに力をいれている理由を高木社長に伺うと、きっかけはアメリカ視察にあると言う。
「ロサンゼルスのチーズケーキファクトリー(アメリカを中心に300店舗以上を展開するレストランチェーン。チーズケーキ以外にもステーキやパスタ等豊富なメニューがある)に行ったときに、エントランスにショーケースがあって、ホールケーキが何十個も並んでた。最初はお土産用のケーキかと思って聞いたら"違います。これは皆さん召し上がるんです"と。最初は脂っこいステーキを食べた後に甘いケーキは合わないと思っていたんだけど、実際にステーキを食べた後にチーズケーキを食べたら非常に美味しかった。これは合うんだなと」
「その後でちょうど〈徳寿〉で大型店の白石店をオープンさせることになって、大きい店舗で空いてるスペースもあったので、じゃあケーキをやろうと。お客様も最初は"え?焼肉の後にケーキ?"という反応だったんだけれども、そのうち"甘いものは別腹だから"と女性のお客様に注文していただけるようになってきて大好評になった。そのうちに"他の店舗ではやらないんですか"という話も出てきたんで、そこからじゃあ他の店舗でも出そうということになった」
そしてもちろん今回の〈レストランKANTO〉でも同社のスイーツメニューを楽しむことができる。なかでも敷地内で栽培、とれたてのイチゴをふんだんに使ったメニューが味わえるのだ。

【獲れたてイチゴをふんだんに使ったスイーツ】
現在〈徳寿ファーム〉では3棟のビニールハウスがイチゴの栽培を行っており、特に現在力を入れているのが白いイチゴ=スノーホワイト。写真はこの日いただいた「イチゴたっぷりのズコットプレート」。赤いイチゴとスノーホワイトの紅白のアクセントが目を惹く。
自社栽培のイチゴ。
またちょうどこの日は朝からイチゴの収穫もあったのでその様子も見学させていただくことができた。
早朝から〈徳寿ファーム〉のスタッフの方が収穫作業に取り掛かっている。一つ一つ熟れ具合を確認し、ハサミを使いてきぱきと収穫していく。
ここで収穫されたイチゴは〈レストランKANTO〉をはじめ、〈梨湖フーズ〉の各店舗で提供される。白老牛と同じく、店舗で提供する食材を自社栽培しているのだ。また観光客向けにイチゴ狩りなども開催しており、家族連れのお客様にも喜ばれているとのこと。

■〈徳寿ファーム〉副場長兼〈レストランKANTO〉店長の長崎氏。
【試行錯誤の連続だった初めてのイチゴ栽培】
この日は〈徳寿ファーム〉副場長の長崎氏にもお話を伺うことができた。「もともと〈徳寿〉で店舗運営に携わっていたんですが〈徳寿ファーム〉で初めて農業へ挑戦することになり最初は試行錯誤の連続でした。農協さんや業者さんに話を聞いたり、イチゴ農家さんを見学させてもらったりして色々な方から勉強させていただきながらイチゴ栽培に取り組みました。肥料の量や数値管理、水やりの量、カビや猛暑の対策など、注意するポイントは多々あるので勉強の毎日です」長崎氏の努力が実り、現在〈徳寿ファーム〉のイチゴは順調に育ち、〈レストランKANTO〉や〈徳寿〉のスイーツメニューはもちろん、イチゴ狩りの開催など多くのお客様を楽しませている。
6次産業化によって実現するもの。
〈梨湖フーズ〉は〈レストランKANTO〉や焼肉〈徳寿〉という3次産業の飲食店を展開する企業でありながら、和牛の育成やイチゴの栽培という1次産業にも取り組み、それを同グループの店舗に向けて加工・出荷するという2次産業も担っている。つまり絵に描いたような6次産業化を実現しているのだ。
高木社長は言う。
「やはり食材を仕入れるとフードマイレージ(=食料の輸送距離)というのがあって、遠ければ遠いほどどう作られてるかわからなくなる。例えばアメリカ産の牛肉でも精肉になって来るからどんな育てられ方をしているのかがわからない。でも僕らが自分たちで実際に育てていれば飼料を変えることもできる」
「今は肉をより美味しくするために飼料の見直し等にも取り組んでる。自分たちで改良に取り組んだ肉は〈レストランKANTO〉や〈徳寿〉で目の前のお客様に届くからお客様の反応も見ることができる。そしてそれをまた次の改良に繋げていく。3次産業からの逆6次化で1次産業、2次産業と販売、生産、加工も手掛けることでお客様とより多くの接点を持って自社のブランド力を高めていくことを目指している」
食材を自社生産することで安心安全な食材を提供するだけでなく、更なるブラッシュアップを通じてブランド力の強化にも取り組んでいるのだ。
白老牛を調理するチャーブロイラー、グリドル。
それではいよいよ〈レストランKANTO〉の厨房へ。同店は白老エリアで長年求められてきた初の「団体旅行に対応できる大型飲食店」であり、大量調理にも対応できる仕様となっている。まずは同店名物の白老牛のステーキを調理するチャーブロイラー。蓄熱性と遠赤外線効果に優れる溶岩石によってジューシーな仕上がりを実現するとともに、ステーキに欠かせない美味しそうな焼き目付けが可能となる。〈レストランKANTO〉料理長の信夫氏からも「ステーキに綺麗な焼き目をつけられる」とコメントをいただいた。
そしてチャーブロイラーの隣にはグリドルが設置されている。〈レストランKANTO〉では白老牛のステーキ、ハンバーグに加えてハンバーガーもラインアップしており、ステーキ、ハンバーグはチャーブロイラー、ハンバーガーのパテはグリドルと使いわけているとのこと。
団体客の対応に欠かせないスチコン
さらに厨房の奥には当社製のスチームコンベクションオーブン〈スーパースチーム〉が。こちらは二段組で設置されており、普段は野菜・根菜類のロースト等が主な用途だそうだが、団体客対応時にはハンバーグの調理にも使うと信夫料理長は言う。
「例えばハンバーグでしたら通常はチャーブロイラーで焼き目を付けた後の火入れはガスレンジのオーブンを使うのですが、修学旅行など団体のお客様がいらっしゃったときは一度に数十枚のハンバーグを調理しなければならないためスチコンを使います」
〈レストランKANTO〉にはナショナルセンター〈ウポポイ〉を見学した後の団体客や修学旅行生などが訪れることがよくあると言う。そういった際の大量調理に当社のスチコンがお役に立てているようだ。また「ゆくゆくは煮込み調理にもスチコンを活用してみたい」というコメントもいただけた。
数多くのマルゼン製品を導入。
他にもガス式の立体自動炊飯器も導入。やはり大量の炊飯調理には欠かせない。スープレンジは普段はステーキの付け合わせのスープ調理等が主だが、団体客対応時にはカレー調理にも威力を発揮するとのこと。
また洗浄機だが、やはり脂のこびりついたステーキ皿を大量に洗浄する必要があるため、洗浄力に優れるスイングノズルと高出力のポンプを内蔵した当社ドアタイプのスイングノズルタイプが導入されていた。「洗浄力は申し分無し」と信夫料理長。
飲食店で一番大切なこと。
最後に高木社長の言葉を紹介しておきたい。
「飲食業で一番大切なことはやはりクオリティ。クオリティの厚い商売をしなきゃならない。クオリティの厚さというのは技術がしっかりしているということ。例えばどこからか仕入れた食材をただ並べて出すなんていう薄いクオリティの商売は長続きしない。自社で使ってる肉にしても、どれぐらい枝肉の状態で寝かせるのがベストなのか。そこを見極める技術をしっかり持てばベストな状態でお客様に提供することができる。またその手前の段階でも飼料の配合を変えたりしてどうすればもっと肉を美味しくできるかにも取り組んでいく」
「店内調理はもちろん一次二次にもこだわりを持ちながら厚いクオリティにしていく。そしてそのレベルの高いクオリティをこれからもずっと目指し続ける。それが基本スタンスだよね」
食材の生産・加工からお店での調理・提供。そのすべての工程に携わり、責任を持ち、クオリティを磨いていく。創業から50年近くもの間、焼肉〈徳寿〉が愛され続けるのは、クオリティを追求し続ける高木社長の真摯な思いの結果なのだろう。
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