―― Vol.18 サンプリシテ ――
熟成魚をメインに据えたことで知られる代官山のモダンフレンチの名店〈サンプリシテ〉。2018年にオープンし、2020年にはミシュランの一つ星を獲得。以来6年連続でミシュランの一つ星を獲得している同店が、2024年7月に同じ代官山エリア内でリニューアルオープンを行った。
移転した同店を訪ねると、まず目に飛び込んでくるのが大きなラウンド型のカウンター席。そう、〈サンプリシテ〉は開業当時もフレンチには珍しいオープンキッチンを導入していることでも話題になったが、リニューアルした新店舗でも同様にオープンキッチンを採用している。
そしてカウンターの向こうにはガラス張りの熟成庫。中には相原シェフのフレンチに欠かせない様々な魚介類が吊るされているのが見える。聞くところによると、今回の同店の移転はこの熟成庫のためだとか。早速相原シェフにお話しを伺った。
移転の理由は「店内熟成庫」のため。
「移転の理由は熟成庫なんです」
相原シェフは言う。
「以前も熟成庫は使っていたのですが、〈サンプリシテ〉の店内ではなく別の所にあったんです。今回の新店舗では店内に設置しましたがやはりオペレーションが大きく改善しました。何よりもいつも管理できるというのが大きい。以前も食材を取りに行く都度見てはいましたが、しょっちゅうは見れない。そして手間もかかります。同じ場所にあるというのは大事ですね」
シャルキュトリに見出したもの
念願の店内熟成庫を導入した相原シェフは更なる試みを始める。それがリニューアルした〈サンプリシテ〉のコースを彩る「魚介のシャルキュトリ」だ。
「今までの熟成魚だけではない新しいカラーを出したかったんです。以前からシャルキュトリには取り組んでいたのですが、前の店舗には熟成庫が無かったので冬場しか作れなかった。今回店内に熟成庫を設けたのでこの魚介のシャルキュトリを出すことによって、他所にはない〈サンプリシテ〉のカラーを出したいと思っています」

【海のシャルキュトリ】
この日いただいたメニューの一部。手前からサワラの生ハム、マグロのブレザオラ、カラスミ、マグロのドライソーセージがそれぞれ2切れずつ並べられており、1つはそのまま、もう1つは付け合わせのピクルス等と合わせて2通りの味わいが楽しめる。そのままの1切れ目はシャルキュトリの醍醐味というか、水分が抜けた分濃厚になった魚介の旨みが凄まじい。付け合わせと共にいただく2切れ目はまるで表情の違う味わいに驚くばかり。「1つ加工品を加えることによってコースの流れにメリハリがつく」と相原シェフ。
オープンキッチンにこだわる理由。
前述したとおり、〈サンプリシテ〉は2018年にオープンした際もフレンチには珍しいオープンキッチンを導入した点でも話題を集めた。今回リニューアルした新店舗でも変わらずオープンキッチンを採用しているが、こだわる理由は何なのだろうか。
「とにかくなんでも”直”だというのが良い。料理もすぐに出せてお客様もすぐ食べられる。どんな風に料理を作っているのかも見ることができます。”熱が伝わりやすい”というか、料理の温度もそうなんですが我々が作ってる真剣な感じも伝わりやすかったりするんです。もちろんお客様に見られているぶんこちらも緊張感もありますが、その緊張感も伝わるので面白いと思います」
お言葉通り、この日も相原シェフはカウンターのお客様と気さくに会話をしながら、コースを彩る「海シャルキュトリ」の準備に入っていた。熟成庫から様々なシャルキュトリを取り出すと、プレートに並べてお客様に説明し、目の前で丁寧にカットしていく。すごい臨場感だ。確かにこれはオープンキッチンならでは醍醐味と言える。
生産者とのつながり
そして様々な魚介類を駆使する〈サンプリシテ〉だが、相原シェフは生産者の方々とのつながりを非常に重要視している。
「現地はかなり見に行きます。新しくお付き合いを始めた所とかは特に。やはりお互い顔もしらない状態でずっと取引をしていてもなかなか距離が縮まらない。しかし現地に行けば生産者の方と食材に関する色々なお話しもできますし、何より普段仕入れている食材がどんな環境で育ってどう届いていているのかを自分の目で見たいというのがあります。また生産者の方もお互い対面の経験があると色々と気を遣っていただけます」
"お店で提供する食材に対して真剣に向き合いたい"。相原シェフの言葉からはそんな矜持も感じられる。

【明石の鰆】
相原シェフいわく「最も長くお付き合いをしている」という明石の鮮魚店より仕入れた鰆。鰆は炭火焼きの香ばしさと火入れの妙が絶品。昆布出汁と赤ワインの濃厚なソースに鮮やかなグリーンの行者ニンニクのオイルが視覚的にもアクセントになっている。
また、この日はアミューズとしていただいた海苔のカステラとブラックオリーブのマドレーヌや、キャビアサブレブルトンなど、いずれも言葉にできないほど美味しかったことを申し添えておきたい。
ヒートトップレンジの代わりにグリドルが活躍するフレンチ厨房。
それでは厨房へお邪魔させていただく。まず意外なのが、〈サンプリシテ〉の厨房にはフレンチの必需品と言われるヒートトップレンジが無い。それではフレンチに欠かせない多種多様なソースはどこで煮込むのかと言うと、なんと当社製のガスグリドルで行っていた。
確かにヒートトップレンジもグリドルも鉄板による伝導加熱という点では同じ。しかし元来は食材を直接載せることを想定しているグリドルの鉄板をソースパンの加熱に使用するという発想が凄い。
相原シェフは言う
「僕も以前はフレンチにはヒートトップレンジが必須だと思っていたんですが、グリドルを導入したらヒートトップレンジとしても使えることがわかったんです。スペースを半分開けておいてそこをソースを温めるスペースとして使えば良い。例えば今日は右側で魚を焼いて左側でソースを温めよう、というような使い方も可能ですし、グリドルでまったく問題ありません」
相原シェフの固定観念にとらわれない柔軟な発想が感じられる。
スチコンを2台に増設したのは「幅を出すため」。
そしてスチコンだが、移転前の店舗ではホテルパン5枚差しタイプを1台使用していたが、今回新たに4枚差しの小型タイプを追加で導入いただいている。
「以前の店舗ではスチコンは1台しか導入していなかったんですが、それだとパンの焼成や温めで営業時間がほぼ埋まってしまうんです。例えばデザートにタルトやスフレを焼きたいと思ってもスチコンがパンで埋まっているとそれができない。そんなときの選択肢を増やすために新店舗では2台体制にしようと決めたんです」
相原シェフは続ける。
「デザートの前の時間帯でも蒸し器としても活用できますし、1台では諦めるしかなかった色々なことが2台あれば選択肢となる。マルゼンさんのスチコンは以前から使っていましたがモデルチェンジして前よりも立ち上がりが早くなり、使い勝手も良いです」
相原シェフの新たな試みにマルゼンのスチコンがお役に立てているようだ。またパンの温めに使用している1台については「主にコンビネーションモード使用していますが、もちもちした食感が出るのがとても良い」とのお言葉もいただけた。
炙り具合を計算できる慣れ親しんだサラマンダー。
炙り調理には欠かせないサラマンダーだが、相原シェフは当社製のサラマンダーは「炙り具合が計算できるのが良い」と言う。
「僕にとってはマルゼンさんのサラマンダーは熱量がちょうど良いんです。長年使っているおかげで”これぐらいの量であればこれぐらいで炙れるだろう”という計算ができる。とても使い勝手が良いです。」
店名〈サンプリシテ〉に込めた想い。
最後に店名〈サンプリシテ-Simplicité-〉について。「単純な、簡素な」を意味するフランス語だが、古フランス語では「正直さ、誠実さ」を意味するという。この言葉を店名にしたのはどんな想いからなのだろうか。
「元々"シンプル"という言葉そのものが好きだったんですが、古フランス語ではさらに「正直さ、誠実さ」という意味もあったと知ってさらに惹かれるようになりました。人間ってすぐ怠けたりするじゃないですか。だから毎日ちゃんと仕事をして、人、食材、料理に対して"Simplicité"な心である様に、という思いを込めて店名にしたんです。」
2018年にオープンして以来、多くのお客様に愛され続ける〈サンプリシテ〉。斬新な熟成魚フレンチや今回から始めた魚介のシャルキュトリ、または臨場感溢れるオープンキッチンなど人気の理由は数多あれど、それを生み出しているのは相原シェフのSimplicitéな人柄そのものなのだろう。
相原オーナーシェフPROFILE
- 1974年生まれ、神奈川県出身
- 1994年 神奈川県・葉山のレストランで働きはじめる。
- 2000年 渡仏。下記のレストランにてフランス料理の研鑽を積む。
- 「アレクサンドル」(ニーム・1つ星)
- 「ジャルダンデランパール」(ボーヌ・1つ星)
- 「ルタンドヴィーブル」(ロスコフ・1つ星)
- 「ドメーヌドシャトーヴィユー」(ジュネーブ・2つ星)
- 2003年 帰国
- 2004年 「銀座レカン」 スーシェフ
- 2010年 「レヴェランス」(広尾) シェフ
- 2011年 「ヴァリノール」(荻窪) シェフ
- 2017年 「Simplicité (サンプリシテ)」を代官山に独立開業する。
- 2019年 「ミシュランガイド東京2020」にて1つ星を獲得。以来6年連続で1つ星を獲得。
- 2024年 「Simplicité (サンプリシテ)」を同代官山エリア内にて移転・リニューアルオープン。
―― SHOP INFO ――

サンプリシテ
東京都渋谷区恵比寿西2-17-13 SOPHIAS代官山1F | ||
Tel. 03-6759-1096 | ||
営業時間 | Lunch(木~日) | 12:00~15:00(L.O13:00) |
Dinner(水~日) | 18:00~22:30(L.O21:00) | |
定休日 | Lunch月~水曜日、Dinner月・火曜日 | |
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